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完全解説!特許の価値評価【金銭評価編①】

こんにちは! 工藤一郎国際特許事務所です。日銀、東証、日経グループ、金融機関、大手技術系メーカーと多数の特許価値評価・知財戦略分析に関する取引実績があります。このブログでは特許価値評価や知財戦略分析に関する情報を提供しています。

今回は特許の価値評価について解説していきます。

POINT
  • 特許の価値評価はインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、コスト・アプローチの3種
  • 上記三つの評価の基礎を解説
  • インカム・アプローチが最も精緻
弁理士
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特許の価値評価は有力特許を持つ企業のM&Aや、特許技術をコアとした企業の融資・投資用判断資料として使用されています。今後はテック系ベンチャー企業には欠かせないものとなりそうです。

3つの特許価値評価方法(金銭的評価)

知的財産の価値評価手法には、大きく分けてコスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチの3つがあります。それぞれの評価手法の特徴は以下の通りです。

評価方法特徴
コスト・アプローチその特許の取得に掛かった費用を計算する。
掛けたコスト=価値とする考え方。
マーケット・アプローチその特許の市場における一般的な価格を計算する。
市場での平均価格=価値とする考え方。
インカム・アプローチその特許が将来生み出すキャッシュフローを計算する。
生み出す将来価値=価値とする考え方。
特許の価値評価方法
弁理士
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基本的には企業のデューデリジェンスと同じですね。ただし、特許の価値評価に特有の点もあるので、本記事をよく読んでくださいね!

3つとも重要なアプローチですが、中でもインカム・アプローチが最も精緻で、特許の価値評価にはよく使用されます。以下、各評価方法について説明していきます!

コスト・アプローチ

コスト・アプローチではその特許の取得に掛かった費用を計算します。
かけたコストをその価値とする最もシンプルな方法といえるでしょう。
「歴史的原価法」、「再構築法」の2種類があります。

歴史的原価法

その特許発明に実際に掛かった開発費を計算します。2種類のコスト・アプローチの中でもさらにシンプルな方法ですね。
この方法のメリットは、実際にかかった費用を計算するという点では簡潔かつ客観的である点です。
その一方で、失敗に起因する費用や節約できたはずの費用も含めて計算されてしまうというデメリットもあります。
また、研究開発費の場合、本当に当該特許に掛かった費用なのかについても判断が分かれるでしょうから、完全に客観的に金額が確定するというものでもありません。

なお、古い特許発明については、通常の有形資産と同様に、その経済的価値の劣化が考慮されます。なぜならば、そうしないとある特許技術の価値が、開発当時と開発後10年(特許期間は残り半分)、開発後20年(特許は消滅)で同じということになってしまうためです。また、経済的価値の劣化を考慮しない場合、後述の再構築法と矛盾する結果が出てしまうためです。

再構築法

実際に掛かった開発費を合計するのではなく、評価日においてその技術の取得に掛かると予想される費用を計算します。この方法では、必要最低限の費用のみを計算します。ただし、完成に至るまでの研究開発費など、合理的な範囲で、成果の出ない費用も含めて計算することができます。この点、どこまでの費用を含めるかは主観に依存してしまう点があるので、この点は、特許の譲渡者と譲受者の間で協議が必要となります。

この方法は、特許の買い手が採用する方法です。自社で開発した場合を想定して金額を決定するため、基本的に買い手にとって妥当な評価額が出る傾向があるためです。一方、売り手からすれば評価額が安くなりがちなので歓迎はされないでしょう。

コスト・アプローチの留意点

「歴史的原価法」、「再構築法」いずれも消極的な評価方法であるといえます。というのも、研究開発とは失敗のリスクも考慮したうえで、費やした費用を大きく超える利益を獲得することを目指して行われるものだからです。その成果である特許発明の価値を費用で計算するというのは適切でない印象があります。とにかく手間をかけずにたくさんの特許をまとめて評価をしたい場合などに使用する方法でしょう。重要な特許を評価する際に使用するものではないかもしれません。

弁理士
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重要な特許の取引にはマーケット・アプローチかインカム・アプローチを使用する印象です。

マーケット・アプローチ

マーケット・アプローチではその特許の市場における一般的な価格を計算します。市場での平均価格=価値とする考え方です。「特許の平均取引価格を用いる方法」、「時価総額から有形固定資産を差し引く方法」の2種類があります。

特許の平均取引価格を用いる方法

評価対象特許に類似する特許の平均的売買額を調査して価格を設定する方法です。この方法は、類似特許に関する取引価格のデータが十分に存在する場合に用いられます。データさえあれば簡単に計算ができるのですが、実際にはそのようなデータが十分に存在しない場合も多く、常に採用できる方法ではありません。

また、そもそも特許の「類似」という概念が議論の分かれるところです。特許とは従来技術に対し進歩性を要求されるものであり、従来特許と「類似」しない特許ほど価値が高いともいえます。また、一見類似する特許でも創出する効果の大きさが異なる場合もあります。そのような場合は、価値評価の観点からは「類似」とするのは難がありそうです。

「類似」概念は一律に判断することは難しいので、評価対象特許の技術分野(IPCなど)ごとの平均値を採用する場合多いです。ただし、技術分野ごとの平均値を単純に採用するのは発明者からすると納得できない場合もあるから注意してください。

時価総額から有形固定資産を差し引く方法

株式時価総額やM&Aにおける事業売買価格から有形固定資産等の時価評価額を差引いて、無形資産の総価格を推定する方法です。この方法は、上場企業の知的財産権やM&Aをされた企業の知的財産の価値を評価する際に用いられます。
M&Aをされたことのない未上場企業の評価や、企業で事業化されていない特許には使用できないため、こちらも採用できる場面は限られているかもしれません。

【参考】マーケット・アプローチで使用するデータ

マーケット・アプローチで使用するデータは大体決まっています。公開されているデータがそもそも少ないからです。例えば無料・低価格で利用できるデータベースでは以下のようなものがあります。なお、「royalty database」でgoogle検索すると大量のデータベースサービスが表示されますが、有料のものが多いです。費用も日本の物価からすると高いものが多い印象です。

上記はライセンス契約に関するデータですので、売買価格ではなくライセンス価格(ライセンス料率)が掲載されています。そのままでは特許の価値は計算できないので、実際には後述のインカム・アプローチと組み合わせて使用する場合が多いかもしれません。

また、いずれもかなりざっくりとした技術分野ごとの集計となっていますので、評価対象特許とマッチしない場合もあるでしょう。

弁理士
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発明者からしたら、特許の内容をしっかり見たうえで評価して欲しいはずですので、使用にはご注意を!

インカム・アプローチ

インカム・アプローチとは、特許発明等の知的財産を実施することにより得られるキャッシュフローを予測することにより、特許の価値を評価する方法です。基本的に、将来得られるキャッシュフローを、事業リスクで割り引くことにより、特許の現在価値を求めます(DCF法:Descount Cash Flow法)。

インカム・アプローチは、評価対象事業のキャッシュフローをある程度予測できることが前提となりますが、三つの評価方法のなかでもっとも精緻な評価が可能となります。

 

NPV:現在価値(NetPresentValue)
α:企業事業のリスクに起因する割引率
N:算定期間
Cfn:各年における特許に起因するキャッシュフロー

この中で特許の価値評価に特有なのは特許に起因するキャッシュフロー(以下、特許CFといいます)です。
特許CFの求め方には大きく「利益三分法・25%ルール」、「超過収益法」、「免除ロイヤルティ法」の3種類があります。

利益三分法・25%ルール

「利益三分法」と「25%ルール」は、営業利益のうち一定の割合を特許による収益とみなす方法です。
「利益三分法」では営業利益を「技術、資本、経営」の3つによる均等な貢献によるものと考え、技術の貢献度は1/3(約33%)と考えます。これは日本で多く採用されている方法です。また、「25%ルール」は特許に係る製品による営業利益の25%を基準とします。この方法は、米国で主要な方法で25%は慣習的に基準として定められた値です。

 この方法は、特許と製品の対応関係が明確な場合に使用できます(例えば基本特許など)。すでにある製品について、機能の追加や生産方法の改善するための特許は、以下の超過収益法やロイヤルティ免除法で計算します。

 なお、利益三分法(=約33%。日本)と25%(米国)の違いですが、25%ルールの場合、特許製品の設計・開発はライセンシーの責任で行うことが前提であり、当該25%の貢献度には含まないのに対し、利益三分法では設計・開発も「技術」の約33%の貢献度に含むことなどが要因として挙げられると考えます。

超過収益法

超過収益法とは、特許技術を利用することに基づいて生じる超過収益を特許により生じるキャッシュフローとする考え方です。すなわち、特許製品と他の汎用品との利益差が特許による超過収益となります。利益差には追加機能(性能改善)による価格の上昇のほか、生産方法の改善によるコストの低減も含まれます。

これはすでにある製品について、機能の追加や生産方法の改善するための特許などに用いることができます。

免除ロイヤルティ法

 免除ロイヤルティ法とは、他社が特許権を保有している場合に支払わなければならないロイヤルティ額が、自社が特許権を保有していることで免除されているとする考え方です。自社が特許権を保有していなかった場合に他社に支払わなければならなかったロイヤルティ相当額を特許により生じる利益とします。

弁理士
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このロイヤルティ料を求める際に、市場での平均的ロイヤルティ料率を用いることがありますね。マーケット・アプローチとの組み合わせです!

工藤一郎特許事務所では様々な特許の分析レポート・価値評価レポートを提供しています。

大手研究所、メーカー、金融機関等向け等に多数の納入実績がありますので、ぜひご相談ください!

以上

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